東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)131号 判決
一 請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立及びその謄本送達にいたるまで特許庁における手続の経緯、発明の要旨並びに審決の理由の要点に関する事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決の取消事由の有無について判断する。
(一) 本願発明の要旨として右に確定したところに成立に争いのない甲第二号証を総合すると、本願発明は、紙又は不織布に空白部を残すように色模様を印刷して、その上に全面にわたつて下地塗装を行つたうえ、これに熱硬化性透明合成樹脂液を含浸乾燥させてオーバーレイを形成し、これを、その下地塗装をした面すなわち、印刷模様のある面が木質コアーの面に接し、成型品についてみると印刷模様がこれを施した紙又は不織布の裏面になるように載置し、その上に平滑面又はつや消し光沢板を載置して加熱加圧成形する色模様のある耐摩耗性化粧板及びその製造方法であることが認められるところ、本願発明が構成上、請求の原因中、四の(一)、1の(1)ないし(4)掲記の点において、引用例のものと相違し、その構成により、同2の(1)ないし(4)掲記の作用効果をもたらすことは当事者間に争いがない。
(二) しかしながら、右構成上の相違に果して、発明の進歩性が認められるか否か。更に検討を進めると、
1 成立に争いのない甲第七号証の一ないし三(引用例)によれば、引用例は本願発明の出願前に頒布されたものであつて、これにはハードボード、ホモゲンホルツ、合板その他の素地に美しいプリント模様のある布や薄手の紙を貼布し、その上をポリエステル樹脂塗料を用いて被覆し美しい模様のある塗装を行う方法が開示されているが、その一部にポリエステル樹脂が浸透性に富むため素地に直接、布あるいは紙を貼布した場合にはこれに塗布するポリエステル樹脂がその布あるいは紙に浸透し、素地を透視して不鮮明な仕上りとなること、また、模様の印刷が紙の表裏ともにある場合には紙の上に塗布されたポリエステル樹脂が紙に浸透して裏面の印刷模様がすけて見えることが記載され、ポリエステル樹脂が素地に貼着された紙に塗布されて浸透すると紙の表面から素地を透視することができ、また、その紙の裏面に模様が印刷されているときは、その印刷模様を透視することもできるという現象が示されているから、本願発明の構成(請求の原因中、四の(一)、1の(1))のように、色模様の印刷を紙の裏面、すなわち、合板等(木質コアー)に面する側にし、その印刷模様を成型された化粧合板の表面に顕出することは、当業技術者において引用例の右記載から容易に想到し得るものと解するのが相当であり、そのように模様の印刷を紙の裏面にすれば、成型された化粧合板においては印刷模様の上に紙が存在することになるため、その紙によつて印刷模様が保護され、本願発明のように、化粧合板の成型表面が摩耗しても印刷模様を消えにくくし、その意味で耐摩耗性を大きくする作用効果が生じる(同(一)、2の(1))ことは容易に理解され得るものというべきである。
2 前出甲第七号証の一ないし三の引用例には、右のように素地(木質コアー)が化粧板に貼布された紙の表面から透視されるのを防止するため、素地に予め下塗塗装を施して置く必要が生じることが記載されているが、右のような下塗塗装の目的からすれば、それは素地(木質コアー)自体にでなく、素地(木質コアー)に貼布される紙の裏面にされてもよい理であるとともに、前出甲第二号証によれば、本願発明においては、模様を印刷した紙の面に下地塗装をし、その紙に透明樹脂液を含浸させて形成されるオーバーレイは成型されたときには透明層となるから、これを下地塗装の面が接するように木質コアーに載置すれば、オーバーレイの紙の表面から印刷模様とその背後の下地塗装とが透視識別されるのに、下地塗装に遮ぎられるため、木質コアーの表面が透視識別されないようになるため、ここに下塗塗装の目的があることを認めることができるから、化粧合板の表面から素地(木質コアー)を透視されるのを防ぐため、下塗塗装を、本願発明の構成(同(一)、1の(2))のように、印刷模様のある紙の面に施すか、それとも引用例に示されたように、素地自体の表面に施すかは当業技術者の容易に選択し得るところであると解するのを相当とし、下地塗装を本願発明のようにすることによつて、その形成を容易にする作用効果(同(一)、2の(2))も、下地塗装の加工内容に照して、当業技術者の容易に予測しうる程度のものといわざるをえない。
3 次に、模様紙に熱硬化性樹脂液を含浸乾燥させ、これを素地の上に載置して、平滑面又はつや消し光沢板を載置し、加熱加圧成型することによつて、表面を樹脂で処理した化粧板を得ることは、本願出願前から、通常の技術手段であつたことは、原告の自陳するところであるから、引用例の塗装手段に換えて本願発明の構成のように、模様紙に熱硬化性透明合成樹脂液を含浸乾燥させて、オーバーレイを形成し(同(一)、1の(3))、これによつて、表面を樹脂で処理加工した化粧板を得ることは、当業技術者の容易に想到し得るところであると考えることができ、また、既出のところを総合すれば、本願発明の構成のように、右オーバーレイをその下地塗装面、すなわち紙に模様を印刷した面が木質コアーに接するように貼着すること(同1の(4))は、当業技術者の容易になし得る程度のものであると考えることができる。そして、以上のすべての点において、本願発明が採用した構成により原告主張のように各種の工程が省略されるため、加工が簡易低廉化するにかかわらず、印刷の識別度、耐摩耗性の高い優れた製品が得られるという作用効果(同(一)2の(3)、(4))も当然予測し得るものであつて、格別異とするに足りるものではない。なお、原告は、本願発明において、木質コアーとオーバーレイとの接着のため接着剤が不要であるのは、模様紙に含浸させた樹脂が加熱の際、にじみ出て接着作用をするからである旨を主張するが、模様紙に含浸乾燥させた熱硬化性樹脂が加熱されることにより、木質コアーとオーバーレイとを接着させる構成は、表面を樹脂で処理した化粧板を得るための通常の技術手段から容易に想到することができる程度のものであるといつて妨げない。
(三) それならば、本願発明は、その出願時、公知の引用例に基いて容易に発明をすることができたものであつて、特許を受けることができないものというべく、右審決には原告主張のような違法がないといわざるをえない。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。